今シーズンのライオンズブルペンにおいて、佐野泰雄という投手は敗戦処理のロングリリーフとして、先発の序盤降板時のつなぎとして、非常に大きな役割を果たしてくれていた投手である。
ここまで50試合近い観戦記でも折りに触れて佐野に感謝の言葉を送っていたりした。
そんな中で佐野・大将のサウスポー二人は各々2イニングずつ無失点。ようやっとる。
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そんな中、佐野は2回1失点。最終回にはエラーも絡んで満塁のピンチを作られるものの粘って抑えておりました。2アウトピンチの場面から完全に打ち取った当たりをエラーされたら気持ちは切れそうなものだけど、そのあとよく踏ん張った。今シーズンの投手難の状況では彼に先発の機会が回ってくることもあるだろう。しっかり準備を整えておいて欲しい。
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この試合の中では佐野が良かった。敗戦処理のような展開で出てくることが多いけど、ここ数試合、そういう中でしっかり自分の仕事をしてくれていた。
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佐野の満塁弾は気にしてはいけない。ビハインドロングを続けていたらこういう日もある。佐野が投げきってくれたことで休めた投手がいるのだ。おれは佐野の役割に感謝している。
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ちなみにこの試合でも今井達也の後をうけた佐野は3回無失点でした。ありがたいことよ。
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その裏でストライクが全く入らずに降板していった南川…。火消ししてくれた佐野に感謝の一日です。
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さて、そんな試合で投手のヒーローを上げるなら、ヒロインにあがった森脇と、多和田の直後をピシャリと抑えた佐野泰雄でしょう。
特に佐野。多和田が残したランナーを1人も返すことなく、6回まで無失点で投げきってくれたのは大きい。例えばこの試合の展開なら7回の森脇を一つ手前に持ってきて、平井・ヒース・増田とつなぐ事もできた。ただ、連勝中という事情でこのあたりの投手が登板過多ぎみであった。特に平井。
佐野が6回まで投げきってくれたからその平井を休ませることができた。こういうロング要員の投手は勝ち星や登板数、ホールド、セーブなんかの成績には反映されにくいんだけど本当に屋台骨ですよ。本当に助かってます。
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タイトルからも分かる通り、敗戦処理としての役割が多かったため、佐野が投げる試合というのはチームは負けていることが多い。でもだれかが投げなければ試合は終わらない。少なくとも24個なり27個のアウトを取らないと、試合は終わらないのだ。負ける試合でも投げなければならない。
チームが逆転してくれれば勝ちはつくが、ここまで佐野が投げていたのは、ほどほどビハインドの序盤か、大差のビハインドの終盤ばかりであった。しかしそこでしっかりと試合をそれ以上ぶち壊すことなく投げ続けていた。
17登板31イニング。これが佐野の今シーズンのここまでの成績だ。基本的に回跨ぎ前提のその登板。彼が2イニング投げてくれたから、勝ちパターンの中継ぎが休めるということもあるのだ。佐野泰雄のそういうチームへの貢献は成績にはあまり反映されない。
今日の先発登板は今やローテの柱となるべき今井達也の発熱による登板回避が原因だった。
小野コーチ曰く、横浜での雨天ゲームの際に雨に濡れた状態でクーラーの効いたロッカーでだらだらしていたことが原因ではないかということだった。それは問題だし、そうでなくても体調管理には気をつけてほしい。まぁ、彼も若い。そういうバイオリズムも含めて1年ローテを守る大変さを感じていってくれればいい。
それはそうとしても翌日のジャイアンツ戦、誰を投げさせたらいいのか。敗戦処理の投手と同じである。誰かが投げないと試合が終わらないように、誰かが投げないと試合は始まらないのだ。
小野コーチは佐野泰雄に白羽の矢を立てた。もともと先発として登板経験もある佐野である。月曜日の午前10時。中継ぎ陣は休養日だったので、佐野は娘と一緒に出かけていたのだそうだ。その最中、投手コーチから鬼の着信。気がついて慌てて折り返すと「明日先発を頼む」とのことだったという。今井達也に連絡をすると、「熱が出てしまって…」と申し訳なさそうに言っていたそうだ。
家族との一時の休息は、その瞬間に終わりを告げただろう。
翌日の先発として調整をしないといけないだろうし、そうでなくとも明日投げることが確定したのだ、いつものブルペン待機とはまた一味違う。
佐野は「娘と出かけていた」と言っていた。近所の公園だろうか、それとも何かしら約束をしていてどこかに遊びに行っていたのだろうか。わからないが、その瞬間に佐野は1人の父親からプロ野球選手に戻ったのかもしれない。
小野コーチは月曜日には「ブルペン総動員で2イニングずつくらい…」というようなことを言っていた。球数をベースに30~40球。緊急事態である。今井達也は発熱による登板回避であるから2軍には落とさず次回登板に望みを託す。2軍から相内や高木勇人などの代替を見繕わなかったのはそういう事情があったのかもしれない。
正直俺は野手が過多気味じゃないかな?と思っているけど、そのバランスを変えないと判断した以上、今いる投手陣の陣容を変えずに戦うならこれしかなかった。
この予告先発を受けて、月曜日の日中、巨人ファンの同僚から「舐め取んのかwww」と笑われた。思えば少し前、レアード満塁被弾の直後だったため5点台を突破していた佐野の防御率を受けて「西武の中継ぎwww」と笑われたことを思い出す。
決して舐めてはいないし、佐野は西武の中継ぎにとって欠かせないピースとなっている。佐野がいないと困るのだ。そんなことは毎日西武戦を見ているライオンズファンならわかっている。
前置きが長くなった。本当に長くなってしまった。
こんなことを言っておきながら試合前の俺の予感としては「佐野、森脇、小川、松本…このあたりを総動員しての打撃戦になるんじゃないか」というものだった。相手はセリーグ最強打線を誇るジャイアンツなのだ。各々2回1~2失点くらいでまとめてくれたら、それでよし、そんな気持ちだった。
今日の佐野は見事だった。結果は4回1安打無失点。それを42球でまとめてみせた。当初予定通りの球数。ストレートも140キロ台半ばから後半と力が入っていたし、スライダーがよかった。小野コーチが「見事」と絶賛していたけど、まさにそのとおり。お見事、完璧。これ以上ないナイスピッチング。
さて、そうなると5回まで投げて勝ち投手の権利を…というのは人情。だが、当初予定の球数を投げているし、中2日というのもある。5回からはカイル・マーティンに継投となった。
4回を投げ終えた佐野はベンチに戻って辻監督、小野コーチと言葉を交わして4回裏の攻撃を見守っていた。首脳陣からしてみても非常にありがたい好投だった。
あとを継いだマーティンもフォア出したり、ピンチを招いたりしながらも3回無失点。
いつも苦労してやってくる8回に、今日は佐野とマーティンの2人でやってきた。しかも無失点で。そこからは平井・増田の必勝メンバーで勝ちを掴みに行く。今シーズン3度目の完封勝利となった。
この試合、佐野に勝ち星はつかない。今シーズン1勝目、プロ入り通算5勝目はお預けとなった。しかし間違いなく、今日の勝利の立役者は佐野泰雄という投手がいたからにほかならない。
今日の1勝は公式記録上、佐野にはつかない。
しかし俺達ライオンズファンや首脳陣はこの1勝が佐野泰雄なくしては得られなかったものだということを覚えておこう。忘れずにいようと思うのだ。
ライオンズリリーフ陣によるブルペンデーが、セリーグ最強ジャイアンツ打線を開幕戦以来の完封ゲームに抑え込んだのだ。
佐野の娘さんにも、あの日出かけていた先で突然表情が変わった父が、その翌日にチームに得難い一勝をもたらしてくれたということを、いつの日にか知ってほしい。
チームで勝つのだ、その中心に佐野泰雄がいた。そんな一試合だった。