人生、東奔西走

自分の人生の備忘録のつもりで作りました。

岡崎泰葉とワンモアバースデー

仕事を終えて出先から帰る段になったのは20時半を回った頃だった。

慌ただしく荷物を片付けて外に出るとすっかり日が沈んでいた。湿気を含んだ風がまとわりついてくる。この業界、忙しいことは良いことだ。出番、需要がなくなればスケジュール帳が真っ白になるのはあっという間のことである。

 

そうは言っても…今日くらいは早く帰りたかった。担当アイドル岡崎泰葉の誕生日は7月16日、とどのつまり今日のことだった。

まぁ、事前になにかしら祝賀会の用意をしていたわけではないし、確か事務所のみんなが誕生会を企画してくれていたから泰葉もそちらに参加しているはずだ。大丈夫、岡崎泰葉はもうひとりじゃない。

とは言っても、ちょっとくらい顔をのぞかせてプレゼントを渡してSNS用の写真など撮ったりして帰ったりもしたかったわけだ。まぁ、その辺りは安斎ちゃんや塩見さんが抜かりなく抑えてくれているだろう。あとでデータを送ってもらって公式SNSアカウントににアップロードしておこう…。

いや、もしかしたらすでにアップしてるんじゃないか?と思ってスマホを取り出してチェックしようとする。したらば、メッセージアプリの着信音が鳴った。差出人は岡崎泰葉。

「今日はみんながお祝いしてくれました!先程、解散となりまして、これから寮に帰ります。」というメッセージと笑顔の泰葉を中心にした集合写真が送られてきた。自分が別件で行けない旨は伝えてあったが、帰りが遅くなったりという心配をさせまいという気遣いだろうか。

さて、なんと返信しようか…ちょっと気の利いたことくらい返そうかと思いながら…脳裏をよぎる。担当贔屓になるかもしれないが、うちのアイドルはしっかりしているとつくづく思う。

 

アイドルとしてデビューしたてのころは、なんでも自分でなんとかしようとしていて…事実泰葉ほどのキャリアがあったらなんとかできていたのかもしれないけど、少し危なっかしさもあった。

それでも選んだその道を楽しんでほしいと思ってプロデュースをしていって…気がつけば仲間にもライバルにも周囲の人達に恵まれて、岡崎泰葉は素敵なアイドル生活を送っている。

俺は、そんな彼女になにをしてあげられるのか。最近、たまに脳裏をよぎることがある。音楽に演劇に、芸能について、自分は特になにかに秀でて詳しいわけじゃないし、当意即妙にバッチコーンとはまった会心のプロデュースを連発しているわけじゃない。しっかりしているうちの担当アイドルにとって、自分はなにをしてあげられるのか…、たまに思うこともある。

結局、最後には「でも俺は泰葉をプロデュースしたい」という感情が勝って勝負勝負の世界に戻っていくのだ。

 

この度もそういう思考がループしかけた時、メッセージアプリが再び着弾音を鳴らす。

 

『過去があるから、今のあたたかい時間がある…心から、思うんです。タカボンさんがいなければ、気づけませんでした』

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『いつだって、今日みたいに笑って過ごします。タカボンさんが引き出してくれた、飾らない笑顔は…私の誇りだから』

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そうか…そんな風に思ってくれてたのか。折に触れて、ジーンとくることを言ってくる子だとは思っていたけども。

岡崎泰葉の強みとは…彼女にしかないキャリアの長さ。その積み上げてきた彼女の過去は決して無駄にはならない、してはいけない。子役やモデルを経て、アイドルという一つの形態にたどり着いて輝き始める岡崎泰葉。そんな彼女の背中を押してあげたいと、そう思い続ける日々だった。

 

飾らない笑顔なんて素敵な言葉で修飾してくれたが、俺といるときには気を張っていないでほしいのだ。プロデュース力で特筆すべきものがないのなら、せめて楽しい存在であろうと。何バカなこと言ってるんですか、でもいい。力を抜いて、リラックス。したらば君は無敵だ。

ああ、そうか…俺のプロデュースってそういうことなんだな。スッと悩みが氷解していくような感覚に陥った。

 

俺がいなければ気づけませんでした、なんて言ってくれるが。俺の方こそ君が言ってくれなければ、気がつけなかった。君をプロデュースし始めた頃のこと、「今更プロデューサーに教えてもらうことなんて」と言ってた頃の君に。とにかく気安く、明るく、朗らかに話しかけていたことを。いつしか歯車がうまく回りはじめていた。スペースワールドの仕事のあとくらいからだろか。もう何年も昔のことのようだけど、つい数ヶ月前のことのような気もする。とても充実したプロデューサー生活を過ごしてきた…。

 

今、原点に立ち返ってみる。

この愉快で楽しい日々が明日からも続いていく。彼女の背中を押しながら、ときに引っ張られながら、笑いながら進むのだ。だから…。

 

『おめでとう!素敵な一年を!』と返信する。

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来年の7月16日に愉快な思い出を語り尽くすべく、明日からも楽しくやっていこう。

泰葉の新しい一年が始まる。